【借金返済】未払いの工事代金の請求事件

本件
支出
適合性

主文

1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

被告は,原告に対し,金1億1065万3968円及びこれに対する平成10年3月31日から支払済まで年6分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

本件は,原告が,小林興業株式会社(以下「小林興業」という。)から,小林興業の本社社屋兼作業場(以下「本件建物」という。)の建築を請け負った(以下「本件工事」という。)ところ,本件工事代金の支払いについて,原告が,被告は原告に対し,被告が小林興業への融資を実行し,これにより原告に小林興業から本件工事代金の支払を受けさせることを確約したが,これを怠ったという債務不履行により原告が被った,本件工事代金相当額の損害賠償,ないし,被告が,原告に対し,上記確約をして,原告から本件建物の表示登記関係書類の引渡を受け,原告の小林工業からの本件工事代金の受領を不可能とし,その保全手段も喪失させたという不法行為により,原告が被った本件工事代金相当額の損害賠償並びに遅延損害金の支払いを求める事案である。
1争いのない事実等
(1)小林興業は,運送を営む株式会社であったが,平成7年1月17日の兵庫県南部地震(以下「大震災」という。)で社屋が倒壊し,その建築を目論んでいた。
小林興業は,被告兵庫支店を主要な取引金融機関としていたが,大震災の影響もあり,その債務額は嵩んでおり,新社屋建築請負代金の捻出が,その課題であった。
(2)小林興業は,平成9年6月23日,神戸国際港都建設事業浜山地区土地区画整理事業のため,神戸市に対し,別紙物件目録(6)及び同(7)記載の各土地を合計金1億1546万6400円で売却するとともに,同土地上の別紙物件目録(8)記載の建物(別紙物件目録(6)ないし(8)記載の不動産を合わせて,以下「a町物件」という。)を建物補償金1億2800万円で移転する旨の契約(以下「a町物件売買契約」という。)を締結し,同日,a町物件売買契約に伴う代替地として,神戸市から,別紙物件目録(9)記載の土地(以下「b土地」という)を代金1億4991万9200円で購入し(その他に,登録免許税金246万3200円及び印紙代金8万円は小林興業の負担であり,実質的な購入価格は合計金1億5246万2400円であった。),平成10年3月20日,訴外株式会社サカイ引越センターに対し,b土地を代金1億8275万5980円で売却し,同日,被告は,小林興業から貸付弁済金1億5000万円の弁済を受けた。
(3)原告と小林興業は,平成9年9月下旬,代金を1億1065万3968円として,本件請負契約を締結し,同年10月下旬に本件工事に着工し,平成10年3月下旬に本件建物を完成させた。
(4)本件建物は,別紙物件目録(2)及び(3)の各土地上に建築され,同(3)及び(4)の各土地が小林興業の所有であり,同(2)及び(5)の各土地は小林興業の代表取締役Aの所有であるところ,被告はかねてから,同(2)ないし(5)の各土地に極度額2億4000万円の共同担保の根抵当権を設定していた。
(5)平成10年3月26日,本件建物につき,小林興業を所有者とする表示登記がされた。
(6)平成10年3月31日,本件建物につき,小林興業を所有者とする所有権保存登記,小林興業を債務者,被告を債権者とする極度額2億4000万円の(4)記載の各土地を共同担保物件とする根抵当権が設定された。
(7)小林興業は,平成10年6月15日に1回目の不渡り,同月19日に2回目の不渡りを出し,平成11年12月10日破産決定(甲24の1)を受けた。
2争点
被告が,原告に対し,小林興業への融資を実行し,これにより原告に小林興業から本件建物工事代金の支払を受けさせることを確約した事実の有無3当事者双方の主張
(原告)
(1)債務不履行責任
ア本件建物は,小林興業の資金繰り等の事情から,主として被告の融資によって建設されることとなっており,かねてから,被告は,小林興業に上記融資をすることを約束し,その旨を原告も了解した上で,本件建物の工事に着工したものであり,工費は全額原告が支弁して竣工に至った。
イその後,小林興業は,近時の不況により資金難となり,工事代金については,被告の融資金による以外には,捻出することが実質上困難な状況となった。
ウ原告は,本件建物に不動産工事の先取特権登記を経由して工事費用を保全しようと考えていた。
エ 被告兵庫支店支店長Bは,平成10年3月30日午後2時半ころ,小林興業本社構内の工事現場において,当時の小林興業代表取締役A同席のもと,原告担当者Cに対し,本件建物の表示登記関係書類を被告に引き渡せば,すぐに訴外小林興業への融資を実行し,これにより原告に小林興業から本件建物工事代金の支払を受けさせると確約した。
オ原告は,これを信頼し,被告に,表示登記関係書類を渡した。
カところが,被告は,本件建物につき,平成10年3月31日に小林興業名義に保存登記するとともに,同日,本件建物に対し,被告の限度額2億4000万円の根抵当権を設定するのみで,小林興業に対し,融資金の支払いを全くしない。
キ小林興業は,被告による融資がなければ,原告に工事代金を支払えないから,原告は,被告の債務不履行により,工事代金相当額の損害を被った。
(2)不法行為責任
被告は,履行する意思もないのに,(1)エ記載の確約をして,表示登記関係書類の引渡しを受け,引き続き本件建物の保存登記及び1番抵当権の設定登記を経由し,不法に,原告の本件工事代金の受領を不能にし,かつ,当該支払いの保全手段も喪失させる不法行為により,原告に,工事代金相当額の損害を被らせた。
(3)まとめ
よって,原告は,被告に対し,債務不履行ないし不法行為に基づき,工事代金相当額の損害金1億1065万3968円及びこれに対する平成10年3月31日から支払済まで年6分の割合による金員の支払いを求める。
(被告)
(1)被告と小林興業との間で,本件建物が被告の融資によって建てられる旨の約束は存在しない。
ア 被告は,本件建物の建築費用につき,小林興業から,以下のように小林興業には多額の金員が入ることから,小林興業側で十分にまかなえるので,被告の世話にはならない旨の説明を受けた(乙3の3,乙6,10の1)。
(ア) a町物件売買契約で得た合計2億4346万6400円とb土地の購入代金(諸費用を含めた金額1億5246万2400円)との差額約9100万円(2億4346万6400円1億5246万2400円。
a町物件売却差額)。
(イ)b土地の売却代金(売却予定価格2億2400万円)から被告に対する担保抹消に伴う貸付弁済金1億5000万円の差額約7400万円(2億2400万円1億5000万円。b土地利益)。
イその後,被告は,平成9年9月12日,小林興業に対し,3700万円の手形貸付を行ったが,うち1500万円が本件建物建築着手金として使用された(乙3の1乃至4)。
ウ被告が平成9年9月当時小林興業から受けた本件建物の建築費用についての説明は,以下のとおりであった(乙3の3)。
(ア)建築費用は1億0489万円であり,その支払い方法として,平成9年6月に手付金として1500万円,同年9月に着手金として1500万円,完成時に残りの7489万円を支払う。
(イ)小林興業は上記手形貸付金3700万円のうち,1500万円を平成9年の支払に充て,完成時の約7500万円の支払いについては,b土地利益を充てる。
エ以上のように,小林興業は,被告に対し,本件物件の建築請負契約締結(平成9年9月下旬)前には,本件物件完成時の支払金の調達方法として,約9100万円のa町物件売却差額と約7400万円のb土地利益とで,途中からはb土地利益を充てることで十分まかなえる旨説明しており,被告が小林興業から本件物件完成時の支払金の融資を依頼された事実はなく,被告が小林興業に対し,本件物件の建築資金を融資する旨約することはありえない。
(2)被告は,原告に対し,被告が小林興業に本件物件の工事代金相当額を融資し,同融資金が確実に原告の工事代金として受領させることを確約していない。
ア上記のとおり,小林興業は,被告に対し,本件建物の建築請負契約締結(平成9年下旬)前においては,本件建物完成時の支払金(約7500万円)の調達方法として,b土地利益(約7400万円)を充てることで十分まかなえると説明していたが,その後,折からの不動産市況悪化でb土地を適当な値段で買い受けてくれる先を探すのが困難だとして,被告に対し,本件建物の建築資金の借入れを再三打診した。
しかしながら,被告は,当時の監督官庁通達で一債務者に対する融資限度額は8億円と決まっており,小林興業には既に融資限度額近くまで融資していたので,小林興業に対し,1本件建物の建築資金については小林興業の当初の計画通りb土地利益でまかなってほしい,2既に融資限度額まで融資しているので,これ以上新たな融資はできない旨回答した。
これに対し,Aは,被告に対し,「本件物件が完成したら,第三者に担保提供してもいいのか」という旨の脅しめいた言葉を言ってきたので,被告は,新たに融資はできないが,小林興業が本件建物を被告に追加担保として提供することを条件に,被告が小林興業の5000万円の定期預金に設定していた担保を解放する(定期預金を解約し,当座預金に入金する扱いをすること)ことで本件物件の建築資金に充てることを検討した。
イ被告は,平成9年12月16日,Aに対し,小林興業に対しては既に融資限度額8億円に近い融資を行っており,本件建物の建築資金のため新たな融資を行うことはできないが,小林興業が本件物件を被告に追加担保として提供することを条件に小林興業の5000万円の定期預金に設定していた担保を解放することを提案した。
これに対し,Aは,5000万円では不満である旨述べたが,被告は,これが精一杯の対応である旨回答した。
ウその後,小林興業は,何度も本件建物の建築資金を融資するよう被告に依頼したが,被告は,これを拒否し続けた。
エAは,平成10年3月10日,被告兵庫支店に来店し,b土地の売却先が決まったが当初予定していたような価格で売却することができないので,被告に対する当初の担保抹消に伴う貸付弁済金1億5000万円を減額するよう依頼した(乙6)。
これに対し,被告は,担保抹消に伴う貸付弁済金1億5000万円の減額は検討する旨回答し(なお,上記依頼をふまえ,担保抹消に伴う貸付弁済金は1億4033万2769円に減額となった),小林興業が,本件建物を被告に追加担保に提供するための事前交渉を行った(乙6)。
オそして,被告・小林興業間で以下のとおりの合意が成立した。
(ア)小林興業側で本件建物の表示登記を行うこと。
(イ)被告は,小林興業に対し,本件建物の保存登記及び追加担保設定登記(根抵当権設定登記)に必要な書類と引き換えに5000万円の定期預金担保を解放すること。
(ウ)上記2のために,小林興業は,被告が依頼しているD司法書士に本件建物建築工事が完了し次第,保存登記及び根抵当権設定登記に必要な書類の写しを送付すること。
カ小林興業は,平成10年3月20日,株式会社サカイ引越センターに対し,b土地を代金1億8275万5980円で売却した。
被告は,取引の現場において,小林興業から1億5000万円(担保抹消に伴う貸付弁済金1億4033万2769円及び証書貸付代返済遅延分966万7231円)の弁済を受けた。
キAは,平成10年3月30日午後2時20分頃,被告兵庫支店に来店し,B及び被告兵庫支店次長Eに対し,「本件建物の表示登記を完了したが,本件建物の建築費用は,附帯設備も含め約1億5000万円となった。
被告に追加担保として提供する本件建物の建築費用1億5000万円に対し,担保預金解放5000万円では不満である。
5000万円の担保預金の解放のみでは,被告に追加担保として提供せず,本件建物の建築業者に担保にいれ,資金の捻出をする」旨申し入れた。
Bは,上記のとおり,既に被告と小林興業との間では本件建物の保存登記及び追加担保設定登記(根抵当権設定登記)に必要な書類と引き替えに5000万円の定期預金担保を解放することで合意ができていた(上記オ)ので,Aの上記合意に反する申し出には応ずることはできないと考えたが,被告が本件建物を建築業者又は第三者に第1順位で担保に提供すれば,将来的に法定地上権の発生が懸念されたので,5000万円の担保預金の解放の外に新たな選択肢を検討した。
Bは,Aに対し,「小林興業に対して新たに融資を行うことはできないが,5000万円の定期預金担保を解放することの外に,残余の定期預金担保2436万3839円を追加解放することを被告本部と協議するので,当初の合意のとおり本件建物の保存登記及び根抵当権設定登記を行うため被告が依頼しているD司法書士宛表示登記完了資料をFAXで送信してほしい。」と告げ,Aの了解を得た。
B及びEは,平成10年3月30日午後4時頃被告兵庫支店を出発し,午後4時30分頃から被告本店で既に被告本店から内諾を得ていた5000万円の担保預金の解放の確認と,新たな2400万円の担保預金の解放の相談を行った。
なお,B及びEは,被告本店融資部と担当役員のF常務と打ち合わせをしたが,G専務不在のため,新たな2400万円の担保預金の解放については翌日再協議となった。
B及びEは午後5時30分頃,被告本店を出て午後6時頃,被告兵庫支店に帰店した。
クB及びEは,平成10年3月31日午前9時前に被告本店融資部に行き,午前11時30分から午前12時20分頃まで5000万円の担保預金の解放の外に,残余の定期預金担保の約2430万円を追加解放することの協議を行い,その内容で決まった(乙50)。
Aは,平成10年3月31日の午後2時頃,本件建物の保存登記及び根抵当権設定登記に必要な書類を持って被告兵庫支店に来店した。
被告は,小林興業に対し,担保預金合計7436万3839円を解放し,同日,5000万円を小林興業の当座預金口座に入金し,残りを同年4月2日に同口座に入金した(乙14乃至48)。
そして,D司法書士は,平成10年3月31日,本件建物の保存登記及び根抵当権設定登記を行った(甲1)。
ケ以上のように,平成9年9月下旬から平成10年3月31日までの間,BはCに会ったこともなく,被告は,原告に対し,被告が小林興業に本件建物の工事代金相当額を融資し,同融資金が確実に原告の工事代金として収受させることを約束したことはない。
(3)上記のとおり,Bは,平成10年3月30日午後2時半頃,本件建物を訪れておらず,被告が原告に対し,被告が小林興業に本件建物の工事代金相当額を融資し,同融資金が確実に原告の工事代金として収受させることを確約したような事実も,甘言を弄して原告から本件建物の表示登記関係書類の引き渡しを受け,原告の小林興業からの本件工事代金の受領を不能にし,その保全手段を喪失させたという事実も存しない。

第3争点に対する判断

1認定事実
前記争いのない事実及び証拠(証人A,同C,同B,同E及び後掲各証拠)並びに弁論の全趣旨によると,次の事実を認めることができる。
(1)小林興業は,昭和36年に設立した運送を業とする株式会社であって,被告兵庫支店を主要な取引金融機関としていた。
小林興業は,平成7年1月17日に,大震災によって,社屋が損壊し,数か月間事業を営めなかったことなどのため,経営が困難になった。
被告の原告に対する貸付残高は,平成9年6月20日頃には7億8600万円余であって,それは当時の監督官庁通達による一債務者に対する融資限度額である8億円に近い状況であったから,被告は,一貫して,融資額を漸減するという方針であった。
しかし,他方,小林興業は,倒壊した社屋の新築も目論んでおり,その代金のうち,少なくとも,着手金については,被告から融資を受けたいという考えを持っており,被告にそれを打診しながら,平成8年頃から,原告との間で,その建築請負契約について相談していた。
なお,原告の実質的な経営者であるCは,その弟にさせている株式会社大正を使って,小林興業に融資をしていたが,大震災の後には,その貸金総額は1億円近くとなっており,その利息は日歩15銭ないし20銭であった。
(甲9,26,乙1の1,乙5)
(2)小林興業は,平成9年6月23日,神戸市との間で,神戸国際港都建設事業浜山地区土地区画整理事業のため,神戸市に対し,別紙物件目録(6)及び同(7)記載の各土地を合計金1億1546万6400円で売却するとともに,同土地上の別紙物件目録(8)記載の建物(別紙物件目録(6)ないし(8)記載の不動産を合わせて,以下「a町物件」という。)を建物補償金1億2800万円で移転する旨の契約(以下「a町物件売買契約」という。)を締結し,同日,a町物件売買契約に伴う代替地として,神戸市から,別紙物件目録(9)記載の土地(以下「b土地」という)を代金1億4991万9200円で購入し(その他に,登録免許税金246万3200円及び印紙代金8万円は小林興業の負担であり,実質的な購入価格は合計金1億5246万2400円であった。),同年7月22日までに神戸市にb土地代金を支払い,a物件代金の支払を受けた。
上記各契約に伴い,被告は,a町物件上の根抵当権を抹消し,b土地に根抵当権を設定し,小林興業の上記各契約に協力した。
小林興業は,これによって得た金員1億円足らずに一定の入金を加えたものについて,平成9年7月22日から同月31日までの間に,被告への弁済に約3500万円を費やし,約6200万円を現金で引き出した(割引手形での入金後即引き出した現金1450万円を除く。)。
(甲17ないし19,乙1の1ないし5,乙60の1ないし3,61)(3)被告は,平成9年9月12日,小林興業に対し,3700万円の手形貸付を行った。
その際,被告は,小林興業から,今回の貸付代金のうち一部は,小林工業が新社屋建設のため平成9年6月23日神戸市から購入した別紙物件目録記載(4)の土地1274万0640円の購入代金に,1500万円は本件請負代金の中間金の支払に充てること,本件請負代金の残金はb土地の売却代金を充てることなどの説明を受けたので,その説明を前提とし,稟議した上,その貸付を行った。
なお,これによって,小林興業の被告に対する債務残高は7億9800万円余となった。
(甲20,乙3の1ないし4,乙4。)
(なお,証人Aは,この被告にその旨の説明をしたことを否定する供述をする(証人A平成12年10月4日19頁ないし23頁)。
しかし,被告内の稟議書(乙3の3)にその旨の説明に副った記載があるところ,被告としては,当時,小林興業に対する融資を漸減しようと目論んでいたのに,小林興業から説明や申し入れもないのに敢えて虚偽の説明文書を作成してまで融資をするメリットはないから,その稟議書の記載の信用性は高いこと,証人Aの証言全体は,時期等記憶が極めて曖昧と窺えることからすると,上記証人Aの供述は採用することができない。)
(4)原告と小林興業は,平成9年9月下旬,代金1億1065万3968円で本件請負契約を締結し,同年10月下旬に本件工事に着工し,平成10年3月下旬に本件建物を完成させた。
(5)本件建物は,別紙物件目録(2)及び(3)の各土地上に建築され,同(3)及(4)の各土地が小林興業の所有であり,同(2)及び(5)の各土地は小林興業の代表取締役Aの所有であるところ,被告はかねてから,同目録(2)ないし(5)の各土地に極度額2億4000万円の共同担保の根抵当権を設定していた。
(甲2ないし5)
(6)小林興業は,遅くとも平成9年12月頃からは,被告に対し,本件工事代金相当額を融資するように,そうしないと,本件建物を追加担保として提供せず,他の金融機関に入担し,資金を得る旨申し入れていた。
(7)小林興業は,平成10年3月20日,b土地を,株式会社サカイ引越センターに代金1億8275万5980円で売却し,同日,被告に,1億5000万円を弁済した。
平成10年3月10日,被告兵庫支店は,b土地を担保抹消することと引換に弁済を受ける金額を減額すること,その理由としてはb土地の売却代金が当初予定額より低額となったこと,本件工事代金を小林興業において支払う必要があること,本件工事代金の残金1億2000万円については被告担保預金解放5000万円,b土地売却残代金3600万円余,手形支払3300万円余(うち担保預金解放分2000万円)を充てること,更に,上記弁済の際,被告が本件建物について追加担保設定時に5000万円の担保を解放し,加えて,道路公団債務保証に充てられていた2000万円について保証を要しなくなった2000万円について担保を解放することとなっていることなどを,被告本社に報告した。
被告兵庫支店は,同月18日,小林興業の上記約2000万円の担保預金を解放する旨の担保変更申込書を受け付け,同日本店に稟議に回したところ,翌日,それは本店によって承認され,実行された。
(乙6,乙11の1,2,乙12)
(なお,原告は,被告が,かねてから,原告及び小林興業に対し,小林興業に本件工事代金相当額を新規融資の形で実行する旨約しており,b土地の売却は,そのために上記8億円の与信枠から融資総額を減額するためにされたものである旨主張する。
しかし,それを裏付ける確たる書証はなく,証人Cの供述も,小林興業と被告との間で,本件請負契約締結当時頃までに融資を前提とした話しが出ていたことは窺えるものではあるが,それが具体的に総額,本件請負代金の全額か一部か,その融資時期ないしその他の条件,方法を特定した上での約束がされたとするものではなく,到底,本件請負代金全額を新規融資の形で実行するとの約束がされたとは認めがたい内容であって,かえって,原告側としては,その融資の実行を危ぶんでいたと窺えるものであること(平成12年11月20日8頁ないし26頁,42頁ないし47頁,55頁ないし57頁),証人Aの供述も,本件請負契約締結頃以降,小林興業が被告にその申し入れをし,被告が検討していたことまでは窺えるものではあるが,その交渉には紆余曲折があったことを認めており,全体的にみると,最終的に,被告担当者が,原告に,本件請負代金の全額を新規融資の形で実行する旨の確約をしたと解しがたいものであること(平成12年10月4日付証人調書13頁,14頁,同年11月20日7ないし11頁,61頁から66頁),証人B,証人Eはその約束を否定する供述をしており,それらの供述に副う乙1の1,2,乙3の3,乙6があることからすると,証人Cと証人Aによって,上記原告の主張を認めることは困難である。
なお,子細に見ると,前記認定によっても,被告と小林興業との間では,被告が小林興業から本件建物を追加担保として提供を受けることで,小林興業の担保預金を道路公団債務保証が不要となった部分も加えると総額7000万円解放すること,それらを小林興業が,本件請負代金に充てることが想定されていたことからすると,被告側が,原告や小林興業の期待や要請に副うべく一定の配慮をしていると認められ,上記証人Aや証人Cの供述と大きく矛盾するとは言い難い。)(8)平成10年3月26日,原告が依頼したH司法書士によって,本件建物につき,小林興業を所有者とする表示登記がされた。
(甲1)
(9)被告は,本件建物に表示登記がされたので,追加担保の設定を目論んだが,平成10年3月30日にも,小林興業(A)は,本件請負代金の新規融資をして欲しい,それが実行されなければ,他の金融機関に担保設定するなどと申し入れた。
(その申し入れた場所,時間,Cも同席したか,詳細な方法やその際の被告側の返答については争いがあり,それは,本件争点なので,別途詳述する。)(10)原告は,被告が依頼したD司法書士事務所に,平成10年3月30日午後3時31分ないし32分頃に,本件建物の表示登記関係書類をファックス送信し,D司法書士事務所は,同日午後4時8分頃に,被告に,その関係書類と共に,小林興業宛の所有権保存,根抵当権追加,付随業務一切の報酬等の請求書を送付した。
(乙9の1,2)
(11)被告兵庫支店は,平成10年3月30日小林興業の担保預金5000万円分を解放する趣旨の担保変更申込書を受け付け,翌31日に本店に稟議に回し,同日承認を得た。
更に,被告兵庫支店は,同日小林興業の担保預金約2400万円分を解放する趣旨の担保変更申込書を受け付け,同日本店に稟議に回し,翌4月1日承認を得た。
5000万円は同年3月31日に解放され,約2400万円は同年4月2日に解放された。
5000万円については,3月31日中に,一部(20万円弱)は被告への利息債務の弁済に充てられた他,そのほとんどが交換手形の決済,振替の他,総額4500万円を超える現金引き出しによって費消され,約2400万円については,一部(300万円強)は被告への利息債務の弁済に充てられたが,他は,証書貸付の決済,交換,現金引き出し等に費消されていったものであって,小林興業においては,その資金繰りに利用した。
(乙7,乙10ないし12,14,15,乙16,乙17の1ないし4,乙18,乙19の1ないし3,乙20,乙21,乙22の1ないし3,乙23,24,乙25ないし31の各1,2,乙32,33,乙34の1,2,乙35ないし37,乙38ないし41の各1,2,乙42ないし46,乙47の1,2,乙48,乙49の1ないし4,乙50)
(なお,証人Aは,解放された預金については,従前の借入金と相殺されたかのような供述をするが(証人A平成12年10月4日32,33頁),前記各証拠によると,前記認定の使途は明らかであって採用できない。)
(12)D司法書士は,同月31日,本件建物につき,小林興業を所有者とする所有権保存登記,小林興業を債務者,被告を債権者とする極度額2億4000万円の(4)記載の各土地を共同担保物件とする根抵当権設定の手続をした。
(甲1)
(13)小林興業は,平成10年6月15日に1回目の不渡り,同月19日に2回目の不渡りを出し,平成11年12月10日破産決定を受けた。
なお,株式会社大正は,平成10年6月18日に本件建物及び別紙物件目録(2)ないし(5)の各土地に債務者を小林興業,A,極度額1億2000万円とする根抵当権を設定登記手続をし,同日Cは,賃借権設定仮登記手続をした。
(甲1ないし5,甲24の1)
2平成10年3月30日の被告兵庫支店支店長Bの原告(C)に対する原告主張の確約の有無
(1)原告は,Bが,同日午後2時30分頃,小林興業の事務所付近で,原告に対し,小林興業に対し,本件請負代金相当額の新規融資をする旨確約した,そこで,原告は,それを信じて,持参していた本件建物の表示登記関係書類をBに手渡した旨主張する。
そして,甲10(Cの陳述書),証人C,証人Aの記載,供述は概ねそれに副うものであり,更に,これを裏付ける証拠として,原告の日記(甲25の1及び2),証人Iの陳述書(甲14)及び証言並びにJ(甲12),K(甲15)及びL(甲16)の陳述書が存する。
しかし,これらは,次に述べるとおり採用することはできない。
(2)ア前記のとおり,表示登記関係書類は平成10年3月30日午後3時31分から32分の間に原告からD司法書士にFAXされ,同じ書類が同日午後4時8分から9分の間にD司法書士から被告兵庫支店にFAXされた事実が認められる。
これについて,仮に原告主張のように,Bが同日午後2時半頃,Cから直接表示登記関係書類を受領していたならば,改めて,原告からD司法書士に表示登記関係書類をFAXする必要はなく,上記の原告主張は,客観的事実と整合しない。
イ証人Aの平成10年3月30日のBとのやり取りの具体的内容についての供述は曖昧で,信用性が乏しいばかりか,前記のとおり,小林興業は平成10年3月31日及び同年4月2日に担保解放を受けた預金7400万円の大部分を自らの資金繰りに活用しているのに,証人Aはその預金につき被告の債権と相殺したかのような曖昧な供述をしていることからすると,その頃のやり取りについての証人Aの供述は全体的に信用性に乏しい。
ウ原告にとって,本件建物の表示登記関係書類は,自らの債権の確保を図るために最も重要な書類であり,かつ,その額も1億円を上回る高額なものであったのに,証人Cの供述では,平成10年3月30日,この書類をBに渡した際,受領証や被告が上記確約を証する書面を要求しておらず,その理由は,支店長だからうそをつくはずがないと思った,Bを自分と同じ島の出身だから個人として信用したことによるとするもので,内容自体,不自然と言わざるを得ない。
エ原告の主張を裏付ける陳述書(甲12,14ないし16)及び証人Iのうち,証人Iの供述は,時期,Bの同一性の確認が確実かに疑義がある内容である他,具体的には,Cが,融資と書類の交付は引換だという申し出に対し,Bと目される者が,「とにかく登記書をもうて帰らないことには融資はできない」と言ったのみとするものであるから,売買代金全額を新規融資する旨確約したことを立証するものとは解しがたく,その際の,CとBのやり取りについての証人Cの供述とも食い違うものであって,原告らの主張を裏付けるに足りるものではなく,他は,陳述書であって,反対尋問を経たものでないから,それのみで原告の主張を裏付けるに足りるものではない。
オ原告の主張を裏付ける原告の日記(甲25の1,2)も,これに反する被告の主張を裏付けるBの部下であるE作成のメモ(抜粋)(乙8)があり,それを対比した場合,いずれの信用性が高いかを判断することは困難であって,甲25の1,2のみで原告の主張を裏付けるに足りるものとは言い難い。
カ証人B,証人Eは,原告の上記主張に反し,概ね,平成10年3月30日,被告が,Aの要請を受けたため,同日,従前予定していた約5000万円の担保預金解放に更に2400万円の担保預金解放を検討し,Aから表示登記関係書類の交付を受けることとなり,担保預金解放を実行した旨供述するが,その供述は,前記認定の担保預金解放の経過と一致するものであるし,前記認定の通り,解放された預金の大部分が小林興業に活用されていることからすると,実質的に見ても,小林興業の代表者Aがその条件で表示登記関係書類を被告側に渡すと判断する合理的な根拠となるに足りる事実であることからすると,この点の証人B,証人Eの供述は,上記の概略については,信用することができる。
更に,前記認定のとおり,平成10年3月30日までの経過は,原告の主張する経過より被告の主張する経過と近いものであるところ,証人B,証人Eの供述は,被告の主張する経過に副うものであるから,信用性が高い。
キ株式会社エーユー神戸支店に対する調査嘱託の結果によると,小林興業株式会社名義の携帯電話から,平成10年3月30日正午から午後6時までの間では,午後1時12分30秒,33分9秒,39分27秒にそれぞれ被告兵庫支店に,同日午後1時19分17秒にC名義の携帯電話に電話がかけられているが,他にはそれらの電話に電話がかけられたことはないと認められるところ,これらの電話の時間は,甲10,証人C,証人Aの供述とほぼ一致するもの(1)で,かつ,証人Bが供述するAからの午後3時20分から午後4時頃までの間Aから2度電話を受けたとの供述を裏付けるものとはなっていない(2)。
しかし,1については確かに,一定証人C,証人Aの供述の信用性を全体的に一定程度高めるものではあるが,カまでに指摘する各点も総合すると,決定的とまではいえない。
更に,2については,AからB他の回線を用いた電話がされる可能性も否定できないから,証人Bの供述の信用性を完全に否定するものではない。
(3)そうすると,原告の主張する約束を認めるに足りる証拠はなく,かえって,平成10年3月30日以降Aが被告への担保権設定登記手続に協力したのは,被告らが主張する担保預金解放額の増額の申入によると窺えるから,その余の点について判断するまでもなく,被告に債務不履行や不法行為は認められない。

第4結語

したがって,原告の請求はいずれも理由がない。

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